3行でわかる要点
- 国の推奨(歩行またはそれと同等以上を1日60分以上=約8,000歩以上に相当)も目標(平均7,100歩・運動習慣者40%)も、すでに明確に示されている。
- それでも運動習慣のある人は34.6%にとどまり、働き盛りの30〜40代が谷(女性40代は17.2%で全体最低)。一方で77.0%は運動不足を自覚している。
- 足りないのは知識でも意志でもなく、日常の中で健康行動が続く「設計」──公的統計はそう読める。
国の推奨と目標──1日約8,000歩・運動習慣者40%
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、成人に「歩行またはそれと同等以上の強度(3メッツ以上)の身体活動を1日60分以上」行うことを推奨しています。歩数に直すと1日約8,000歩以上に相当します(60分の歩行が約6,000歩、3メッツ未満の生活活動が約2,000歩、という換算です)[1]。あわせて、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日、そして全世代共通で「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する」ことも挙げられています。高齢者の目安は1日40分以上(約6,000歩以上)です [1]。
なぜ歩くのか。同ガイドは、日本では身体活動・運動の不足が喫煙・高血圧に次ぐ非感染性疾患による死亡の3番目の危険因子と示唆される、と先行研究(Ikeda et al., The Lancet 2011)を引きながら整理しています [1]。これはガイドによる研究の整理であって、本記事が運動の医療効果を主張するものではありません。また、この推奨は達成義務のある基準ではなく、「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」ことが原則とされています [1]。
国の目標も明確です。健康日本21(第三次)は2032年度の目標として、歩数の平均値7,100歩(年齢調整値。20〜64歳は8,000歩、65歳以上は6,000歩)、運動習慣者の割合40%(年齢調整値)を掲げています。ベースラインは2019年度の6,278歩・28.7%でした [2]。
現在地──平均7,071歩・運動習慣者34.6%、30〜40代の谷
では、現在地はどこか。令和6年国民健康・栄養調査(2024年10〜11月実施・2025年12月公表)によると、20歳以上の歩数の平均値は7,071歩(年齢調整値7,231歩)。男性7,763歩・女性6,495歩でした [3]。なお、この調査の歩数は三次元加速度センサー式歩数計で測定された値で(未装着の日・100歩未満・5万歩以上は集計から除外)、後述するとおり過去の調査値との単純な比較はできません [3]。
運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続している人)は34.6%(年齢調整値31.3%)。男性38.5%・女性31.5%で、およそ3人に1人です [3]。
年代別に見ると、はっきりした「谷」があります。男性は30代・40代がともに23.4%と最も低く、女性は30代19.5%・40代17.2%──女性40代は全体の最低値です。一方、70歳以上は男性52.6%・女性42.6%と半数前後に達します [3]。運動から最も遠いのは、働き盛り・子育て世代です。
自覚77.0%→週1実施51.9%→継続26.9%──途切れるファネル
では、意識が足りないのでしょうか。スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(令和7年11月調査。18〜79歳対象のWEB調査、有効回収40,000件)では、77.0%が運動不足を「感じる」と答えています(「大いに感じる」35.4%+「ある程度感じる」41.6%)。この自覚はむしろ30〜50代で高い傾向にあります [4]。
同じ調査で、週1日以上のスポーツ実施率は51.9%。ただし「汗をかく30分以上の運動」に限ると週1日以上は39.6%に下がり、「1年以上継続して週2日以上」──国の運動習慣者の定義に近い条件──まで絞ると26.9%、およそ4人に1人になります [4]。自覚(77.0%)から継続(26.9%)までのあいだで、行動は段階的に途切れていきます。
注意点をひとつ。この51.9%(パネル型WEB調査・自己申告)と前節の34.6%(層化無作為抽出による国の調査)は、調査手法も設問の定義も異なるため、同列には比較できません。ここで見るべきは、同一調査の中でファネルが減衰していく構造です。
続かない理由も、この調査は聞いています。週2日以上継続できていない人(n=19,427、複数回答)の理由の上位は「仕事が忙しいから」34.0%、「面倒くさいから」30.8%、「体力が衰えたから」17.0%、「家事が忙しいから」15.3%。男性は「仕事」(39.8%)が最多、女性は「面倒くさい」(34.8%)が最多で、30代女性では「家事」31.6%・「育児」29.3%が突出します [4]。知識の不足でも、危機感の欠如でもなく、生活の側に理由があります。なお、実施されている種目の1位はウォーキング(60.3%)──「歩く」は、すでに最も選ばれている手段です [4]。
歩数は10年で減っている──経年データを正しく読む
経年ではどうか。ここは統計の読み方に注意が要る箇所です。
令和5年調査(2023年11月実施)では、20歳以上の歩数の平均値は男性6,628歩・女性5,659歩で、厚生労働省は「直近10年間で男女とも有意に減少」と公表しています [5]。これを令和6年の7,071歩と並べると1年で大きく増えたように見えますが、その読み方はできません。令和6年調査は歩数の測定に三次元加速度センサー式歩数計を用いたと明記されており、過去の調査とは測定方法の記載が異なるためです [3][5]。
したがって本記事では、経年の傾向は厚生労働省自身の整理──この10年、歩数は減ってきた──に従い [5]、令和6年の7,071歩は測定方法の注記付きの「現在地」として別立てで扱います。健康日本21(第三次)のベースライン(6,278歩・2019年度)や目標(7,100歩)と引き比べて達成度を語ることも、測定方法をそろえた公式の評価を待つのが誠実だと考えます。
統計の限定と、設計への示唆
最後に、この記事が依拠した統計の限定を明記します。国民健康・栄養調査の運動習慣は質問紙による自己申告であり、歩数も調査時点の測定値です [3]。スポーツ庁の調査は有効回収40,000件と大規模ですが、インターネットパネルを用いたWEB調査という手法上の性質があります [4]。ガイドの推奨は達成義務のある基準ではありません [1]。いずれの数値も実態の記述であって、本記事から運動の医療効果(病気が治る・予防できる等)を主張することはできません。
その限定の上で、統計が描く構造はこう読めます──自覚はすでに足りている。知識の不足も、続かない理由の上位には挙がっていない。足りないのは、日常の中で行動が続く設計である。77.0%が運動不足を自覚し、最も手軽な「歩く」が種目の1位であるにもかかわらず、継続まで至る人はおよそ4人に1人。続かない理由の上位は「仕事」「面倒」「家事・育児」という、生活の側の摩擦です。これを個人の意志の弱さとして片付けず、仕組みの側で解くべき課題として扱うこと──私たちが健康における行動変容を「意志ではなく、根拠と仕組みで。」設計しようとしているのは、この構造に向き合うためです。
行動変容の設計に対する私たちの考え方は /healthcare/behavior-change をご覧ください。
参考文献
よくある質問
- 日本人は1日平均で何歩歩いていますか?
- 令和6年国民健康・栄養調査では、20歳以上の歩数の平均値は7,071歩(男性7,763歩・女性6,495歩)でした。この調査の歩数は三次元加速度センサー式歩数計で測定されており、測定方法の記載が異なる過去の調査値との単純な比較はできません。
- 国が推奨する運動量はどのくらいですか?
- 「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、成人に歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当)などを推奨しています。ただしこれは達成義務のある基準ではなく、個人差を踏まえ可能なものから取り組むことが原則とされています。
- 運動が続かないのは意志が弱いからですか?
- 統計はそうは示していません。77.0%が運動不足を自覚しており、自覚は足りています。続かない理由の上位は「仕事が忙しい」「面倒くさい」、30代女性では家事・育児といった生活側の要因で、知識の不足は上位に挙がっていません。日常の中で行動が続く設計の問題と読むのが自然です。